黒井みふ子の昼職時代
※「どちらのトイレを使うか」を決めてくれたのは、女性だった
メンヘラで寝坊助でうかつですぐミスをし、セックスで殿方を喜ばせる以外にまったく取り柄がないわたしですが、かつては非正規雇用ながら昼職についていたことがあります。コールセンターで保険会社の問い合わせ対応をしていました。
その当時、わたしはまだ下の名前を改名をしていませんでしたから(今は裁判所にて改名済み)、男の名前が書いてある社員証をぶらさげたわたしがいわゆる「トランス女性」であることは全社員に一目瞭然でした。ホステスの仕事と掛け持ちをしていたので、その前の昼間シフトで化粧キメッキメのカラコン入りで出勤することもあれば、夜勤でどすっぴんにスウェットで出勤することもありました。所詮アルバイトだったからというのもあるでしょうが、仕事をきちんとしていさえすれば誰からも咎められませんでした。
他部署から視察に来た正社員にまじまじと見つめられ「ほう……君がうわさの……」などと言われたこともありました。
そのセンターの所長は女性でした。
まだ若い、たぶん30前後のきりりとしたいかにもデキそうと印象を与える所長は、ある日わたしに言ってきました。
「女子トイレ使っていいから」
どちらかといえば女性が多い職場でした。おそらく所長はわざわざエレベーターに乗って違うフロアの障害者用トイレにまで行くわたしを見ていたのでしょう。もしかすると、わたしが女子トイレを利用することの同意を他の女性社員から取り付けていたのかもしれません。
これがもし男性の所長だったら、たぶん話しはこうすんなりとはいかないはずです。
※女性の地位向上に反対する理由なんかない
その後、わたしは個人的な事情からセンターをやめ完全に夜の世界の人間となってしまいました。その所長と会うことはおそらくもうないでしょう。
今回の騒動を通して、わたしはあの所長のことを久しぶりに思い出しました。そして今更ながら本当に感謝しています。
職場や学校におけるトランス女性の相談相手は女性です。(同じクラスや職場にトランス女性が2人以上いるということは考えにくいので)その女性の地位向上や男女不平等の撤廃にわたしは反対する理由をいっさい持ちません。そしてセクシズムが蔓延る場面で一番危険な目に遭うのはトランスなのです。
それなのに、「フェミニスト」と自認する人を見ると身構えるようになってしまった。
これはとても悲しいことです。