帰ってきたみふ子の真夜中日記

ちんちんついてる爆乳抜き屋さん。全身課金500まん。一部R18

【R18】SURVIVE,T-woman!

※露わになるとき


ノックする。ドアが開く。扉の向こう側にいたのは、ピンクのワンピース姿の巨体の女性……いや女装した男性だった。わたしはやや面食らう。前回会った時の様子とは違っていたから。

「お久しぶり。どうしたの今日は?かわいいかっこしちゃっ……」

と、言い終わる前に""彼女""はわたしの身体にしがみつき、口づけをしてくる。全身の力を抜きキスに応じる。くちびるが離れるのを待って、はいはい、落ち着いて、と昂ぶる""彼女""を宥めてコートを脱ぐ。

「ほら、こないだ言ったじゃなぁい?」と、いわゆるオネエ口調で""彼女""は言う。次は女の子の姿で犯して欲しいって……。

「ああ、そうだったね!」

……迂闊だった。

わたしとしたことが、前回接客した時に会話した内容をまるっと忘れていたのだった。そうそう、前回は夜の時間帯にスーツ姿だった""彼女""は、わたしに罵倒されながら肛門を犯され射精した後に、実は女装の趣味もあって……と言ってきたのだった。何しろ3ヶ月前のことだし、その間に数えきれない人数を接客している。そして、""彼女""のようなタイプのお客さんは実はさほど珍しくはない。

この仕事をはじめて最初のうちは少し抵抗も感じたし、元々サディズムには程遠い身としては求められる役割に戸惑うばかりだったが、今ではこのタイプはわたしのお得意様である。何よりプレイのイニシアチブを取れるのが良い。こちらがM役の場合は向こうが何をしてくるのかわからないから。

「あ、そうそう、忘れてたワァ」と""彼女""は一万円札を3枚、わたしに渡す。わたしは満面の笑みで受け取る。

「ありがとう。今日も一緒に楽しもうね!」

それからわたしは""彼女""に口づけをする。その長いキスの間に自らのワンピースの肩紐と前紐を解く。すると、するすると身体の上を布が滑り落ちる。このお仕事に最適な、二秒で脱げる衣装というわけだ。

「素敵な身体……アタシもこうなりたかった……」と""彼女""はいう。

両手では収まらない胸と、長年のホルモン投与で様変わりした肉付き、そして、パンツから少しはみ出たペニス。あらかじめ勃起薬を飲んでいた。わたしは問いかける。

「ねえ、あなたの名前を教えて?」

「みちこ」

ふた回り以上も年齢が上と思われる女装さんの命名のセンスに思わずわたしは吹き出しそうになってしまう。


※鏡の国のMtF


「これで、また明日から仕事が頑張れるよ」

中年男性の姿に戻った""みちこ""さんから送り出され、店に連絡し、わたしは街に出る。次の予約まで時間があるので、デパートに行くことにした。ファンデーションがもうすぐで切れそうだ。買い足さなくては。

コスメカウンターの前に立つと、BAさんが甲高い声で「どうぞ〜」と声をかけてくれる。真正面の鏡に自分の顔が映る。より女らしくなるために、何度かメスを入れ、糸で縫い、注射針を刺した顔だ。その甲斐もあり、まあまあそこそこイケているのではないか、と思う。しかし斜め横にある鏡を横目で見ると、軽い吐き気のようなものを感じる。

人の顔を見慣れているBAさんにはわたしの元の性別などバレバレかもしれない、という考えがよぎる。あの、ファンデーション……。

「こちらですねー。いまお時間あります?よろしかったら新商品お試しに……」

「ごめんなさい、急いでいて……」

商品の入った袋を受け取り、鏡だらけのフロアーを歩き出す。次はどこを整形するとよいのだろうか?いくらかかるのだろうか?もうすでに性別適合手術を2回半受けられる金額を美容医療につぎ込んだ。完全に、疑いのない姿になるには。そしてそのためには、何年、今の仕事を続けなくてはならないのだろうか?


※見えない存在


デパートの女子トイレで用を足しながら、ツイッターのことを思い出す。

トランスジェンダートランスジェンダーを装う性犯罪者は見分けがつかない』

『女子トイレや女湯はペニスを切り落としてから』

『トランス女性は男性用に。男性がトランス女性を差別している』

わたし、ただオシッコしてるだけなのになあ、と思う。

何年目だろう。もうずっとこちらを使っていて、トラブルは一度として起きていない。むしろ、トラブルは男子トイレでよく起こっていた。本格的にトランスをする前、ただ女性ホルモンの錠剤を飲みつつ、髪を伸ばして中性的なファッションをしていたわたしは、男子トイレでしばしば他の利用者を驚かせていた。手を洗っていると、入ってきた男性が慌てて出て行くのが鏡ごしに見えた。しばらくしてぶ然とした表情でその男性は入り直してきた。このオカマ野郎がとでも思っていたのだろうか。

そういえば、かつて昼間のバイトをしていた時に、いつもフロアの違う誰でもトイレを使っていたわたしを見兼ねた女性の室長が、「君、女子トイレ使っていいから」って言ってきたのがはじまりだっただろうか。世の中にはああいう心の広い女性ばかりではないということか、それともわたしたちは何か違うものと勘違いされているのか……。

世の中にはいろんなトランス女性がいる。いろんなのがいるから、そりゃレズビアンにペニスを受け入れないのは差別だというトランス女性もわたしの知らないどこかにいるのかもしれない。風俗嬢のわたしからすれば気が狂った野郎としか思えないが。

世の中にはいろんなトランス女性がいるから、十分に女性として埋没できていないのに性別適合手術をしてしまったトランス女性もいるだろう。あわれだ。彼女は勝手に存在しないペニスをでっち上げられることを恐れて女子トイレに入れなくなるだろう。かといって男子トイレにも入れない。

トランス女性は差別されている。誰に?社会に。トイレも公衆風呂もトランス女性のことを想定しているとは言いがたい。部屋を借りるのにも、就労をするのにも、苦労する。

だから、うまくやらなくてはいけない。いろんな手を使って。サバイブしなければならない。ヘマをしてはならない。注意深くしていなければならない。

サバイブしなければならない。性産業の扉をノックしてでも、顔や身体を切り刻んででも。

手を洗って、わたしは鏡を見る。あぶらとり紙で皮脂のテカリを取り、パウダーをはたく。うん、大丈夫。誰もわたしの本当なんて、見えていない。周りの誰にも。

見えていないはずだ。


ネットの掲示板には同業者が自殺したという真偽不明の情報が流れていた。