「当たり前のこと」だったはずのこと

※「差別してはいけません」

わたしは難しいジェンダー論のことはよくわかりません。トランスがなぜトランスになるかなどの分析は、頭のいい人たち、よく本を読んでいる人たちにして貰えばいいと思うのです。

わたしは、当たり前のことに立ち返って欲しい、そう願うのみなのです。

ツイッターのルール、「ヘイト行為」の項目に以下のような記載があります。

人種、民族、出身地、性的指向、性別、性同一性、信仰している宗教、年齢、障碍、深刻な疾患を理由とした他者への暴力行為、脅迫、嫌がらせの助長は禁じられています。

そう、人の性同一性を理由とした嫌がらせの助長は禁止されているのです。これはこの騒動以前は「当たり前のこと」として、少なくともリベラルな意識を持っていた方には共有されていたはずのことでした。

あなたに関係のないところで、一人の他人が、生まれた体とは違う性で生きることを真剣に望み、悩んだ末にジェンダークリニックに通い、違う性のホルモンを身体に投与し、ひっそりと移行を進めつつ、身体にメスをいれ、違う戸籍を手に入れたとしても、あなたにはなんの関係もないはずのことでした。いや、事実なんの関係もないのです。

※ヘイトのハードルが下がることへの恐怖

この騒動が持ち上がる以前から、トランス女性へのもやっとした違和感を、それでもつつましく語っていたフェミニズム系アカウントをわたしは知っていました。また、きわめて少数の集団がひどいヘイトをばらまいていたのも把握していました。

しかし今はモゴモゴ口ごもっていたはずのアカウントは大声でトランス否認を叫ぶようになりました。また一部の過激なグループは今では多数のRTやイイねを獲得しています。

突破口となったのが「トイレ・お風呂問題」です。「安全、安心」を盾にとると差別がまかり通るのはどの差別問題も同じかとは思う一方で、このブログでは、可能な限り、「安全・安心」についての疑問に、具体例を挙げながら、真摯に答えてきたつもりです。しかし、不安と恐怖の声と極論(その多くは当事者としてリアルに生きているわたしにとっては、こう言っては悪いですが、バカバカしいものに見えます)に、わたしの説明はかき消されてしまう。いや、意図的にかき消しているのかもしれません。

「突破口」を閉じられたら困るものね。「トランス行為自体がミソジニー」という思想を持っている方々には。

今回の騒動は、明らかにトランス女性へのヘイトを表明することへのハードルを下げました。わたしはこの騒動の発端となったとあるアカウントのツイートを特定しています。それは間違っても「チッス」や「グヘヘ」ではない。

そして、一部のトランスがこの動きに応じる形で挑発に乗ってしまった。まあもっとも、これについてはわたしも非難はできません。わたしだって迂闊な発言はするし、頭に血がのぼれば、売り言葉に買い言葉をしてしまう。激しい追及をしてしまう。トランス女性にはメンタルが不安定な方が多いですから。この騒動の渦中であればなおのことです。

※本音と建て前

たとえば、自分が女性として生まれたことが、絶対な不幸であった。そう考える人がトランス女性になにかモヤモヤする思いを抱くのは、わたしは自然なのではないかと思います。わたしはわたしの人生、あなたはあなたの人生を生きていて、それぞれに固有の歴史があるのだからと言ってみてもそれは仕方のないことです。

また強いホモソーシャル、ホモフォビックな環境で育った人間が、トランス女性という存在に不快感を抱くのも止められません。誰も、他人の内心を裁くことはできないのです。

しかしかつては、トランス女性の性自認を揶揄して「私は神だ」と言ってみたり、「トランス行為自体が差別」と言ってみたり、「Y染色体」と言ってみたり、することは「あっこいつやばい奴だ」と思われる行為だったはずです。

もう一度「当たり前のこと」に立ち戻りませんか。

最後に一枚のイラストを貼らせていただきます。ここにいるのは、男とも女とも判別がつきがたい、しかし服を着れば概ね女性として通るはずの人間です。トランス女性は概念ではありません。実際に肉体を持った、笑ったり泣いたり怒ったする、固有の歴史と肉体を持つ人間なのです。

出典 https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%8F%E3%83%BC%E3%83%95